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Be One


オレは「覇王」となって取り返しのつかないことをした。
強大な力に振り回され、自分を救いたいと心から願う友さえもこの手で殺した。
この世界を支配する「覇王」。
オレを支配した「覇王」。

その「覇王」すら、オレの一面だったという。


「なあ、覇王」
「……」

無言。

「お前、怒ってるのか? やっぱり....」

…やっぱり、無言。


ずっと一緒にいたのに存在すら気付いていなかった。
どんなに憎まれても仕方がないんだ。

それは、わかっているのだけれど。


やりきれないなあ…





“怒ってるのか?”

そう訊かれても終始無言で貫いた。自分でも上手く答えられないのだから。
深い闇の中に独りにいた自分。十代がその存在を認識したのは、十代本人の意思ではない。
むしろ彼にとって、自分は気付きたくもないモノだっただろう。
十代が光を浴びているときも、俺はずっと誰にも気付かれず闇に居た。
だからその間の十代を知る者は、俺を異物だと、本来あってはならないモノだとしか思えないだろう。

けれど十代の罪ではないのだから、それに関しては何ともいえない。
だから、自分は決して怒っても、ましてや憎んでもいない。


けれど自分を埋めるかすかな痛みは……





覇王は自分のことを疎ましいと思っているみたいだった。

今、オレと覇王のココロは重なり合っている。しかし、全てがというわけではない。
近くに居て、ちゃんと相手がわかる。共用する部分もあれば独立しているところもある。ココロが交差しているといった方がいいのだろうか。

話もできるし、相手の人格も呼ぼうと思えばすぐに呼べる。相手の考えてることも大体わかる。
だから余計に覇王に申し訳がなくなってしまう。

あいつに伝わってるとわかって、敢えて思う。


なあ、「覇王」。
求めてばかりじゃ、なんにもならないって、救えないって、わかってる。
あのとき――みんなが光の粒子になって消えたときは、もう未来は砂の様にオレの手に零れ落ちていった。
当たり前なんだけどさ…始めなきゃ、動かなきゃキッカケもなにもないって。

もう誰も知らないところに行きたかった。
暗い夜の果てにでも行きたかった。夢なんて真っ白なときだってあった。

思い出しても…いや、今でも辛い。
だけど、もしこの世界が終わるってときでも、この記憶を手放すつもりなんてない。
さらわれそうになっても握り締めて絶対に離さない。
その辛さも罪も…全部オレの――重なり合うオレたちの証だから。





置き去りにできない痛みだから。





十代が俺に言うように、俺も奴に言う。

もし、貴様と出逢えたことに意味があるのなら。
お前の「覚悟」もそれまでの自由も、永遠に続くから。
今触れ合っている俺たちの指先。根拠はわからないが信じられるって心から思える。
いつか俺が、俺もお前のように心から笑顔になって涙も流せるようになりたい。ありのままな俺の証を刻みたい。

お前が幸せならいい。
意外かもしれないが、俺はこっそりそう思っている。ささいなことでも、俺にとっては祈りなんだ。
ちっぽけなことでも幸せは幸せなんだ。俺にとっても……お前にも。……きっと、誰でも。
俺がよく見た闇の中の星の、ほんの欠片な輝きかもしれないが。

お前は、お前にとっての孤独より深い闇に居たであろう俺に、無理もなかっただろうが戸惑っていた。
うなされていたこともあった。受け入れた今だって、何かにうなされている気がする。
お前には、お前には大切な人が居る。大切に思える人がたくさん居る。
だから、素直に助けを求めて良かったのだと思う。誰かを頼っても、誰かに寄りかかってもよかったんだ。
それが欠けてたから俺が見つかったと言えば、それまでなのだけれど。

お前が紡いできた物語。お前が知ってきた愛しさも楽しさも、苦しみも切なさも、かけがえのないものだから。


ほんの少しずつでいい。
お前の心からの願いを、本当の願いを叶えていってほしい。
俺の心のかすかな痛みは…きっと、知らないことが多すぎるゆえの歯がゆさだろうから。



…「覇王」。
オレもお前の幸せを願ってる。だから…自分を閉じ込めないで。
オレの物語はオレだけの物語じゃない。お前と紡ぎあげてきた、たったひとつの物語。
これからだってそうだから。
どんな感情も過去も、覚悟も、自由もオレたちふたりの証なんだから。



いつか…

本当にひとつになるときが来たらいいって思うけど……


今が確かに幸せ、なんだ。





お前だってそうなんだろ?





当たり前だ。

…俺も、どんな終わりが来ようと、俺たちの軌跡を忘れるつもりはない。
それさえあれば、俺たちは孤独じゃない。
もう、俺はあんな闇に姿をくらますこともない。






「「この幸せがあるのだから。」」


++ fin ++